鍵はチェーンで体に繋ぎましょう

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私がダンス教室でレッスンを受けていたときです。

外から女性が声をかけてきました。彼女は私の前にレッスンを受けていた生徒です。
「バイクの中に鍵を入れたままにして出せなくなった」
彼女が乗るバイクは50ccの原付バイクで、シートを持ち上げるとヘルメットが収納できるタイプです。シートを持ち上げるには鍵で解錠する必要がありますが、施錠ではいりません。持ち上げたシートを倒せば自動で施錠されるからです。

彼女はバイクのシートを持ち上げたあと、うっかり鍵を荷物と一緒に収納したまま、シートを倒してしまいました。
教室にいたのは男性の私と女性の先生だけです。
先生は彼女のためになんとかしようと倉庫から工具類を手にして、外に出ました。
レッスンが中断され、何もやることがなくなったので私も外に出ると、女性2人がバイクを前にして悩んでいます。

私がバイクのところに行くと、先生が「なんとかならないかな?」と言います。
先生が持ち出した道具を見て、閃きました。
「細長いドライバーをシートとバイク本体の隙間に差し込んでドライバーを持ち上げれば、シートも持ち上がって隙間ができるので、そこに手を入れて鍵を取り出せるかも」

私はドライバーを左手に持ち、シートとバイク本体の隙間に差し込んでドライバーを持ち上げると、隙間ができました。
その隙間に右手を入れますが、隙間がせまいので深く入りません。
ドライバーを持ち上げすぎるとバイクに傷がつくからです。
私は彼女にバイクに傷付けてもいいかと問いました。彼女は隙間をひろげないと私の右手が入らないことが理解してくれました。

彼女の了承を得て、少しでも右手が隙間に入るようにドライバーを持ち上げます。
前より右手を深く差し込めるようになり、指先が鞄に触れました。
鞄に触れてことに安堵したのか、ドライバーを持つ左手を緩めた瞬間、シートが下がって右手を挟まれました。
右手に痛みを感じた瞬間、左手に力を入れ直してドライバーを持ち上げました。
左腕の力が尽きる前に鍵を取り出さないといけません。

急いで鞄の中に指を入れ鍵を探しますが、見つかりません。
左腕の力が抜けそうになったとき、指先に鍵の感触がありました。
これだと思って、人差し指と中指で鍵を挟みこみ、取りこぼさないようにゆっくりと右手を抜き始めます。

あと少しで鍵が外に出せる瞬間、左腕の力が急に抜けそうになり、隙間が狭まります。
最後の力を振り絞って左腕に力を入れたら隙間は広がり、その瞬間、右手を一気に引き抜きました。
急いで引き抜いたので指に挟み込んだ鍵を取りこぼしたかと思いましたが、アスファルトの上に落ちていました。

3人で鍵が取り出せたことを喜んでいたとき、私の肩に痛みが出ました。無理を続けたので肉離れがおきたのです。
先生は教室から氷の入った袋を持ってきて、私の肩を冷やしてくれました。
でも、氷が少ししかなかったの、あまり効果がありません。
そこで彼女はバイクの中から鞄を取り出し、近くのコンビニでロックアイスを買ってきてくれました。
おかげで肩の痛みは引いて、少しですが楽になりました。

それ以来、彼女は鍵にチェーンをつなぎ、手元から離れないようにしています。