初体験

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悪いウィルスが流行したせいで、私は潔癖性になってしまった。
潔癖な私は極力、モノに触りたくない、触ると、その都度、手を消毒しないと気が済まないからだ。
「自分の家でしょ」と母親に注意されることが多いのだが、自分の家であろうが極力、触りたくない。
私、「行ってきます」
学校へ行くために家を出る際は、玄関ドアを開けなくてはならないのだが、玄関ドアを触りたくない、なぜなら、私以外の人もドアノブを触っているだろうから。
幸いのことに玄関ドアは引き戸タイプ、そのため、足を使えば玄関ドアは開けられる。

学校から帰って来る時間帯には家には誰も居ないため、私が玄関ドアのカギを開けなくてはならない。
まずは、上のカギを回す、次は下のカギを回す、カギを回してもカギは抜かない。
鍵穴にカギが刺さった状態でカギを掴んで押せば、ドアノブを触らずに玄関ドアを開けられる。
いつものように、鍵穴にカギが刺さった状態でカギを掴んでドアを押すと、カギが「ポキッ」、しまった、カギが折れてしまった。

鍵穴には、折れたカギが残っている、マズイ、これでは外からカギを掛けられない。
とりあえず、家に入ってどうするか考えよう。
手を洗ってからリビングへ行くのはいつものこと、高校生になってもリビングには母親がオヤツを用意してくれている。
オヤツと一緒に置いてあるのは母親が書いたメモ書き、それには、「今日はパパの出張に付いて行くので、明後日まで帰れないから、戸締まりをシッカリしてね」と書いてあった。
家には2つのスペアーキーがあるのだが、1つは父親が持っている、もう1つは母親が持っており、両親揃って帰って来ないため、マズイ。

家の中からはカギは掛けられるしチェーンロックも出来るのだが、明日学校へ行くとなると、外からはカギを掛けられない、どうしよう?
「ピンポーン」、チャイムが鳴ったため出ると、お隣さんが回覧板を持って来た。
こんな時に回覧板なんて持って来るなよ、と思ったのだが回覧板を見ると、「空き巣と不審者に気を付けましょう」と書いてあった。
母親に電話をして事情を話すと、
母親、「鍵屋さんに来てもらいなさい」
私、「どうして?」
母親、「どうしてって、鍵穴に折れたカギが刺さっていたら、お母さん達が帰っても意味がないでしょ」
出張先から母親が鍵屋さんに連絡をしてくれると、30分もしないうちに鍵屋さんが来た。
鍵屋さん、「こちらの家にお住まいの方ですか?」
私、「はい、そうです」
鍵屋さん、「身分を証明出来るものはありますか?」
私、「学生証で良いですか?」
鍵屋さん、「学生証で良いですよ」
鍵屋さんが鍵穴から折れたカギが抜くのに要した時間は僅か数分、ついでにスペアーキーも作ってもらった。
制服に学生証を入れておくのは、いつも面倒だと思っていたのだが、人生で初めて学生証が役立った。