受け取りを拒んだ鍵屋さん

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鍵屋さんに来てもらったのは計3回、3回とも同じ鍵屋さんのため、鍵屋さんも私のことを覚えていただろう。
1回目の時は、「お父さんもお母さんもいないの?」と聞かれたが、2回目以降は聞かれなかった。
家を見れば、何か問題を抱えた家庭であることは分かったと思う。
小学低学年だった私の気掛かりは、鍵屋さんに支払うお金が無いこと。
1回目の時は、隣の家のオバちゃんが支払ってくれた。
鍵屋さんを呼んでくれたのも隣の家のオバちゃんだった、私が家に入れないのを心配してくれていたのも、いつもオバちゃんだった。
いつもなら、親が帰って来るまでオバちゃんの家に居させてもらうのだが、翌日から修学旅行のため、家に入って準備をしなくてはならず、やむを得ず鍵屋さんに家のカギを開けてもらった。
母親がカギを置いていかないのは、カギを置いていけば父親が見付け、勝手に家の中に入る恐れがあったから。

鍵屋さんに来てもらった2回目は、母親が音信不通になって1週間が経ったから。
親が音信不通になると、先生が心配して家に来てくれたが、私は家にはいない。
私が居たのは隣のオバちゃん家、子供でも1週間もオバちゃん家に世話になるのは悪いと思った。
先生、「明日の試合には出られそうか?」
とは言ったものの、先生が目にしたのは荒れ果てた私の家。

カギが掛かっていても部屋の中は見ることが出来、部屋の中には試合で使うユニホームが干してある。
オバちゃん、「試合には行かせます」
荒れ果てた家を見ているのは鍵屋さんも同じ、オバちゃんが鍵屋さんにお金を渡そうとすると、鍵屋さんは受け取りを拒んだ、どうやら、親に捨てられた私を同情しているようだ。

3回目は、呼んでもいないのに鍵屋さんが来て、家のカギを開けてくれた。
中学生だった私は、有り金すべてを渡そうとすると、
鍵屋さん、「たまたま通りかかっただけだから、お金はいらないよ」
それ以降も、頻繁に目にする鍵屋さん、どうやら、私のことを気に掛けてくれているらしい。
中学を卒業した私は街を離れてしまったため、両親とは音信不通だが、鍵屋さんの車を見ると、昔、お世話になった鍵屋さんのことを今も思い出す。鍵屋さん有難う、それと、天国のオバちゃんに合掌。